甲状腺疾患にはバセドウ病や橋本病のように甲状腺ホルモンのバランスが乱れる疾患や、甲状腺が炎症を起こす疾患、甲状腺に良性や悪性の結節(しこり)が出来る疾患などがあります。以下、甲状腺の病気でもっともよくみられる甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症についてお話しをします。
甲状腺ホルモンの量はfT3やfT4という採血検査項目で測定します。このホルモンのバランスは、TSHで調整されています。甲状腺ホルモンとTSHは例えるなら天秤のようなバランスをとっております。つまり甲状腺ホルモンが多ければTSHが減り、逆に少なければTSHが増えます(他の原因で両方のホルモンが減る/増えることもあります)。
甲状腺ホルモンが増加する(甲状腺機能亢進症)と、さまざまな臓器の代謝が増える結果、暑がり・汗かき、疲れやすい・動悸・息切れ、指先の震え、体重が減る/増えない、下痢、神経質な性格になった等の症状が出ます。
逆に甲状腺ホルモンが低下する(甲状腺機能低下症)と、さまざまな臓器の代謝が減る結果、逆に寒がり・皮膚の乾燥、下肢むくみ、体重が増えた/減らない、便秘、意欲低下/無気力な性格になった等の症状が出ます。老化症状に一見すると似ているため、病気と気づかない人もおります。また、医師の診察においても、他の病気と間違われやすいのが特徴の一つです。
甲状腺の働きの異常は、甲状腺に対する自己抗体ができてしまうことが原因の一つとして挙げられます。甲状腺に対する自己の特殊抗体の刺激で甲状腺ホルモンが過剰に産生され、血液中の甲状腺ホルモンが増加している代表的な疾患が、バセドウ病です(自己抗体が陰性でも疾患を発症する場合もあります。この他、甲状腺が炎症性に破壊されて、甲状腺内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に漏れて、血液中の甲状腺ホルモンの増加が見られる状態を亜急性あるいは無痛性甲状腺炎と呼びます)。
逆に甲状腺からの甲状腺ホルモン産生が低下して、血液中に甲状腺ホルモンが低下する代表的な疾患が、慢性甲状腺炎(橋本病)です。先ほどの亜急性あるいは無痛性甲状腺炎などの治療経過でも、甲状腺内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に過剰に漏出した結果、ホルモンの分泌低下を生じることがあります。更に、過剰のヨード類の摂取でも甲状腺機能低下症が発症することがあります。
これらのバセドウ病と橋本病は頻度の割合的にも高い疾患で、性差では約10対1の比率で女性に多くみられます。そしてバセドウ病・橋本病は体の免疫状態が変化する状態(例えば出産等)を契機として、発症あるいは増悪することが知られております。症状が顕著な方もいればハッキリしない方もおり千差万別で、他の診療科や神経科の診察の際に発見される場合も少なくありません。病気を悪化させないためにも、早期発見と治療開始・継続が大切です。
早目の受診・検査を心がけましょう。
甲状腺機能亢進症や中毒症の原因となる疾患
甲状腺機能低下症の原因となる疾患
- 橋本病
- その他の原発性甲状腺機能低下障害
- 薬剤性甲状腺機能低下症
甲状腺機能亢進症や中毒症の原因となる疾患
甲状腺機能低下症の原因となる疾患
- 橋本病
- その他の原発性甲状腺機能低下障害
- 薬剤性甲状腺機能低下症
追記)イソジンうがい液が及ぼす影響について
イソジンヨード自体は優れた製剤で一般にうがい薬として販売されている医薬品ですが、「使い方」「使う方」によっては問題を起こすこともあります。
イソジン含有うがい薬に含まれている「ポビドンヨード」と呼ばれるものは主に昆布やワカメなどに含まれているミネラルの一種の「ヨード」と、毒性を下げ水によく溶けやすくする「ポリビニルピロリドン」という成分から作られている医薬品で、強い殺菌効果を持ちます。歯科医院での抜歯後の処置に際し処方されることもあります。また使われている濃度は異なりますが、手術室での術前の手指消毒をはじめ、さまざまな部位の手術や処置をする部位の細菌・ウイルス数をゼロに近い状態にするためにも用いられます。
ただ妊婦さんがこの成分が入ったうがい薬を連用すると、普段の食事で海藻類から摂取する量よりもはるかに多くのヨウ素を吸収し、ヨウ素過剰症を引き起こすことがあります。このヨウ素過剰症、国外は元より過去に国内でも母親が昆布や昆布だしを沢山摂取した結果として結果的に母体内の胎児もヨウ素過剰状態となり、生まれながら甲状腺機能低下症となってしまった例が国内で大勢いたことがわかったという報告から、妊婦でのヨウ素製剤の服用は禁止されています。またヨウ素成分のアレルギーの方も一定の割合でおられます。
その部位における殺菌力が強力である反面、口の中に残った場合はコーラに匹敵するほどの歯を溶かす力(コーラのpH:2前後に対しイソジンのpH:1.5~3.5前後と強酸性)を持っているため、適切な濃度に薄めて使用し、イソジンうがいをした後は必ず口を水でゆすぐ必要があります(歯のエナメル質が溶けてボロボロになります)。また歯が茶色に染まりやすいという見た目の問題もあります。
日本甲状腺学会・日本内分泌学会・日本内分泌外科学会の3学会が連名で「新型コロナウイルス感染症へのイソジンうがい薬の使用についての見解」を発表し、ヨウ素含有うがい薬の頻回使用に注意を促しております。こちらもご一読をお願いします。