しんかなクリニック

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災害時・緊急時対応について

Diabetes

災害時のご自身の対応について

<最初に>
地震や豪雨といった災害が起きると、普段と異なる食事の内容や時間などに制約がでたり、状況によっては薬も手に入りにくくなったり、と血糖コントロールが難しくなることがあります。また、程度の差はあれ一度災害が起きると、ご自身の気が動転してしまい、途端に何をしたらよいのかわからなくなるものです。糖尿病の方にとって急激な環境変化はストレスとなり、血糖値が下がりにくく上昇しやすい要因にもなります。
※災害時等の緊急事態時の原則)落ち着いて身の安全が確保できる場所まで移動 です。
日頃から災害への備えを忘れないよう、災害時の対応のポイントを正しく知っておくことも大切です。

災害時に血糖コントロール悪化が悪化してしまう原因

災害時に血糖コントロールが悪化する原因として、いつも通りの行動ができない点です。
・1:糖質多く不規則な食事・スペースが限られ動く事が出来ない
・2:薬の不足
・3:過度のストレス
といった状況が災害時に糖尿病が悪化する原因として考えられます。

・1:
非常時で提供される「保存食」はどうしても炭水化物(糖質)の割合が多く、肉・魚や野菜類等の準備・摂取する機会が少なく、下記の運動量減少と相まって、結果的に血糖値が上がりやすい状態です。また水分摂取が取りにくい中でカップ麺の汁まで飲むと塩分も摂取過多になります。そして、避難所では配給の問題等で食事の時間が不規則なることがあります。
 →取り過ぎないように注意が必要です。

また避難所は、このコロナ禍で1人分のスペース(ソーシャルディスタンス)も広めに取られるようになりましたが、それでも一箇所にじっとしていると「深部静脈血栓症」の発症リスクが高いとの報告があります。
 →避難所での過ごし方を工夫(段ボール簡易ベッド使用や、足踏み運動・マッサージ等)する必要があります。

・2:
大規模災害時だと、近くの医療機関・薬局も被災し停電状態であれば処方箋の発行やお薬のお渡しが出来ません。手持ちの薬が足りなくなったりすると、血糖値や血圧が上昇し、脱水が起こって腎障害や脳梗塞につながることもありますので、この場合は臨時診療所で薬の処方を受ける必要があります。
実際に東北で被災した箇所に開設された臨時診療所において、「お薬手帳の持参が無い」や「普段の薬の名前をよく覚えていない・錠剤の色などの漠然とした情報しか把握していない」等で処方に困った・出来なかった方の割合は来院者の約4割にのぼったそうです。
 →普段からご自身の薬の把握と、第三者にみせられる状態に整理しておくことが重要です。

・3:
災害発生直後の医療機関では、通常状態とは異なり、重症のケガ人など命に関わる方の対応が最優先され、自力歩行が出来る方の優先度は大分後ろになってしまいます(トリアージ対応というもので、病院勤務医期間中に、院長も何度か訓練に参加しました)。

今すぐに治療開始や入院加療の必要がなく、インスリン等の注射製剤も手元に確保ができているようであれば、基幹医療機関や臨時診療所へ行くのは可能な範囲でもう少し待って頂くことも必要になる場合があります。その行動が1人でも多くの方の命を救うことにつながります。

糖尿病をはじめ生活習慣病をお持ちの方は、外見上は健康な人と何ら変わらないため、黙っていても誰も直ぐには助けてくれません。一方で、災害等で過度のストレスがかかると、殆どの方で血糖値が下がりにくくなります。高血糖で余計にイライラしがちになります。不安がある場合は、自分のことを隠さずに伝え、遠慮せずに周囲に協力をお願いしてください。

災害への備えとは?

災害の種類を問わず、日々の備えが重要となります。また、避難生活を送る上では、状況によって普段の薬が手に入るまでに時間がかかることがあります。

災害時には電気が充分に使えない事も往々にありますので、予備の薬と健康保険証と一定額の現金をポーチなどに一纏めに入れ、自宅の決まった場所に置いておくと、緊急避難をするときに持ち出しやすくなります。また、仕事をしている人は、職場のデスク内にも薬の予備を何日分か用意しておいてください。

災害の遭遇に備え、外出するときでも1−2日程度、国内旅行では〜7日程度、海外旅行では14日程度の薬を余分に持ち歩くようにしておくと心に余裕が持てます。
上記に記載していますが、普段からご自身の薬の把握と、第三者にみせられる状態に整理しておくことが重要です。服用しているお薬がわかるように
●お薬手帳 や お薬手帳のコピー を持ち歩く
●携帯電話やスマートフォンで写真に撮っておく・最近ではお薬手帳の情報を取り込めるスマホアプリも何種類かあります (バッテリー切れが起きないよう注意!)
これらを使い、普段の薬を医療スタッフが確認できるように備えておくことも大切です。

海外旅行中に災害にあった…考えたくもありませんが、そのような際の緊急対応として糖尿病協会が発行しているお薬情報の記載が出来るカードがあります。

 

 

 

 

 

 

これとは別に英文紹介状(自費対応+後日お渡し)があれば、英語が通用する圏内であれば他国診療所でも薬の処方は受けられます(保険適応が効くのかは別途、各旅行会社へお問い合わせ下さい)。

災害時にもっていたもの・備えるべきもの(アンケート結果)

2011年の東北地震で糖尿病患者さんが持ち出せた物の上位5つ(重複あり)を聞き取りしたところ、
携帯電話:85%
現金・金銭類:81%
治療薬(内服薬・注射製剤等):65%
水や食料:45%
衣類:38%
であったようです。治療薬(内服薬・注射製剤等)については患者さんの60ー70%が「事前に薬剤を備蓄」されていたが実際に持ち出せた方は約半数に留まったとの報告がありました。これを踏まえ、普段から内服している治療薬(注射製剤や自己血糖測定器等)は日常時から1箇所に纏めておき、薬入れポーチ(ケース)などに薬を常備(出来れば3日・最大でも1週間)する事をお勧めします。糖尿病連携手帳や血圧手帳、お薬手帳や保険証が一緒にあれば、臨時診療所でもいつものお薬処方を容易に受ける事が出来ます。

その他の注意点として
>携帯電話(85%)
→今や1人1台の携帯電話を持つまでに広く普及しましたが、「電池切れ」がおきないよう、手元に電池式の充電器を忘れずに備えて下さい(事前の充電も忘れずに)。

>現金・金銭類(81%)
→2018年の北海道地震で停電の起きた札幌市では電子マネー・クレジットカードでの支払いが一切使えなくなりました。地震が多い日本で「停電」や携帯電話のエリア通信基地局に「何らかの損害がでる」と携帯電話・固定電話とも電話/メールやSNS等が一切使えず「圏外」になります。また2022年7月におきたAU回線の不具合は、たった15分の機器トラブルでしたが、Wifiでの通信自体は何とかなるものの通話やバーコード決済、SNS認証が出来ない等のトラブルを引き起こし、完全復旧に至るまで60時間強を要しました。
類似トラブルはいつ起きてもおかしくありません。

被災時の食事のとり方

災害に遭った場合は、生き延びることが最優先となります。食べられるときには、糖質が多い食べ物でも食べてください。
ただし、少し落ち着いてきたら可能な範囲で、「菓子パンの甘い部分を食べない」「(血圧が上がりやすいため)カップ麺の汁は残す」などの工夫をしてください。

【災害時の薬の注意点】

薬の使い方に注意することも重要です。1日2食など、食事の量が少ないなかで、普段と同じ量のインスリン製剤を自己注射してしまうと、血糖値が下がり過ぎる「低血糖」に陥ることもあります。災害時に備えて、十分な食事をとることができないときに使ってよい薬と使ってはいけない薬などを、事前に担当医に確認して、お薬手帳などに記入しておくようにしてください。また1型糖尿病の方は、食事をとれなくても体内の糖をエネルギーに変えるための基礎インスリン製剤の注射は絶対に続けて下さい。その際の適切な量に関しても、事前に担当医に相談しておいてください。

災害時には、普段使用している注射針が入手できないことも考えられます。
インスリンのペン型注入器に取り付ける注射針は現段階ではいずれも使用することができるようになりました。あらかじめ自分が使用しているペン型注入器で、使用可能な注射針を確認しておき、災害時には自分が使用するペン型注入器に装着可能な注射針にてインスリン注射を行ってください。

シックデイへの対策

シックデイとは糖尿病患者さんが治療中に発熱・嘔吐/下痢で、または食欲不振のため食事が充分に摂取できなくなる状況を呼びます。このような状態では、インスリン非依存状態の患者さんで通常は血糖コントロールが良好な場合でも、著しい高血糖やケトン血症(ケトーシス)に陥ることがあります。インスリン依存状態の患者さんだと、インスリンの絶対不足により糖尿病ケトアシドーシスを発症すると生命の危険の可能性もあり、特別の注意が必要です。シックデイの状態では、体内の炎症などによって血糖値が上昇やすくなります。
また、非常時に於いてはストレスや環境の変化でシックデイが生じやすいとされています。
事前にシックデイの対策についても心構えをしておいてください。

【日常生活】におけるシックデイ対策

1).(特に腹部を)温かくして安静にお過ごし下さい
(水分は最低1~1.5リットル程を分けて飲むようにしましょう。一気に飲むと尿意に反映されるため避けて下さい)。

2).食事や水分/電解質(塩分やカリウム等)の摂取について
食欲のない時は、日頃食べ慣れてなるべく消化の良い(例えば、おかゆ・うどん・スープ・ジュース等)を選び、できるだけ摂取をするように行いましょう。
血糖値は普段のレベルから上昇しやすい状況ですので、腹6〜8分位で留めて下さい。

3).必要な検査で、現状のチェックをお願いします。
体温・食事量、自覚症状などと、血糖測定が出来る方は血糖測定値を記載して、
日々の振り返りが出来るようにして下さい。

4).薬の調節等→主治医へ連絡/早めの対応を仰いで下さい。
○糖尿病の内服薬は食事摂取を前提として作られております。このため、食事が摂取不良の場合は基本的に中止が望ましいとされます。SU薬(グリメピリド・グリクラジド)、速攻型インスリン分泌促進薬(ナテグリニド・ミチグリニド・レパグリニド<製品名シュアポスト>)は中止してください。またビグアナイド薬(メトグルコ/メトホルミン)やSGLT2阻害薬(商品名:スーグラ/デベルザ/フォシーガ/カナグル/ジャディアンス/ルセフィ)も、食事が充分取りづらい間は中止が望ましいとされます。
○インスリン治療中の患者さんでは、食事が取れなくても自己判断でインスリン注射を中断してはいけません。 超速攻型インスリンもしくは速攻型インスリンを使用されている方では3〜4時間に1回ずつ血糖測定を行い、血糖値200mg/dlを超えていた場合はその都度1〜2単位を投与する事も状況に応じて行われます。

●警戒すべき徴候・入院加療を検討する徴候)

下痢・おう吐、強い腹痛等が止まらず、食事が充分とれない。
高熱でぐったりしているために高血糖(350mg/dl以上)が続く時・尿ケトン体強陽性等
等を認める場合、緊急入院加療を念頭に基幹病院へ紹介 としております。

5).(特に1型糖尿病をもつ女性では)月経周期での血糖値推移の変化に注意が必要です。
月経前後で血糖値変動メカニズムについて 詳細は「若くして糖尿病になった方へ」を参照下さい。注射製剤使用者では普段よりIns製剤の効きが変わりますが、個人差が大きいので、判断に迷いがある場合は主治医と相談の上で決めて下さい。

6).出張や旅先で病気になった時のため)
健康保険証、糖尿病健康手帳、常備薬、ブドウ糖など忘れずに持参。

7).出張や旅先で病気になった時のため)
他病院にかかる時に備えて糖尿病の治療内容のメモ・主治医のいる医療機関の連絡先・糖尿病手帳を持参。キチンと現状を説明(できるように)。

【災害避難時】のシックデイの対策

・水分を十分・小まめにとる事で脱水を防ぐ
→水やお茶などを飲み、脱水にならないように注意しましょう。こまめに飲むのがポイントです。「喉が乾いたから」と、一度に多くを飲むとしばらくしてから尿意が出やすくなったりしますので、一回量は少量で・頻度を増やして補うようにしましょう。

・足の曲げ伸ばし程度で良いので、こまめに運動を行ない、ときどき身体を動かしましょう
→長時間同じ姿勢でいると、血液の流れが悪くなり、血管が詰まりやすくなるとされています。 通路を歩くだけでも「りっぱな運動」になりますが、混雑状況に応じて膝の屈伸運動やつま先・かかとの上下運動といったものは簡易ながら狭いスペースでもできるおすすめの運動になります。

・食欲がなくてもできるだけ、スープやおかゆなどの炭水化物をとる
【日常生活】におけるシックデイ対策2).に同じ

・手持ちの薬の残数・使い方に注意する
【災害時の薬の注意点】に同じ

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