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運動について

Diabetes

運動(トレーニング)について 疾患予防を越え、介護予防にも効果が及ぶ

身体を動かすことは、糖尿病だけでなく肥満や生活習慣病・循環器疾患や、がん、加齢に伴う生活機能の低下、認知症などのリスクを下げることができるといわれています。
運動は、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動と筋力トレーニングに分けられています。
健康寿命を伸ばしたり、日常生活での活動量を上げたりと、運動はとても大切です。

糖尿病での治療の最終目標は【健康な人と変わらないQOLの維持や寿命の確保】になります。これを達成するためには、血糖・ 体重などのコントロール状態を良好に維持し、細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症と進展を阻止することが重要(日本糖尿病学会治療ガイドより)とされています。糖尿病をお持ちの方は、体カレベルが低下し、活動量も低下していることが多いため、特にコロナ禍の運動としては、今の時点より少しでも(10分でも)多く体を動かす事が有効です。
運動強度や時問よりも、まずは運動の「頻度」をできるだけ増やす・こまめに体を動かす・じっとしていない・座位時間を減らす事が勧められます。毎日日常的に行っているものの一つである歩行・歩数に各個人差はあれども毎日何気なく踏み出しているその「一歩」こそが、糖尿病合併症予防という千里の道へとつながっています。無理せず自分にできる運動続けていきましょう。

また介護予防の面でも生活習慣病の予防に加え運動習慣を持つことの重要性が示唆された報告もあります。新潟県三条市在住の約1万人の医療ビッグデータ(特定健診、レセプト、介護保険データ)を統合解析した所、糖尿病で運動習慣がない者では要介護リスクが3.2倍にまで上がる一方、2型糖尿病をもつ患者さんでも定期的な運動習慣がある者と要介護状態に陥るリスクを非糖尿病者並みに低減できる可能性が示唆されました。

血糖値と運動との効果について:少しずつでも効果は積み重なる

運動することで期待できる効果として

短期的効果)食後の運動でと食後高血糖の改善・またストレスや睡眠不足の解消・是正
長期的効果)筋力上昇→基礎代謝の上昇 動脈硬化や認知症・寝たきり、がんの予防
が言われております。

ウォーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳など、長時間継続して行う運動を有酸素運動といいます。有酸素運動により筋肉への血流が増えると、ブドウ糖が細胞の中に取り込まれ、インスリンの効果が高まり、血糖値は低下します。ノルウェーで行われた約56,000人に対して行われた研究では、ランニングのように汗をかく運動を週一回行うだけでも、心臓血管疾患で死亡するリスクが下がることが報告されています。

※ウォーキングとランニングの違い

○ウォーキング:少なくともどちらかの足が地面についている状態で行われる運動。
○ランニング:両足が浮いている瞬間がある運動。浮いている足が着地する時に体重の約3〜5倍の負荷が足にかかる →このため怪我をしないための準備運動が欠かせません。

また、筋力トレーニングによって筋肉が増えることでも、インスリンの効果が高まり、血糖値は下がりやすくなりますが、運動をやめてしまうとその効果はすぐに失われていきます。
運動は、「血糖値を下げる」「体重が減る」「血液の循環が良くなる」など多くの効果がありますが、最大のメリットは「インスリンが効きやすい身体になる」ことです。糖尿病合併症予防にも大きな影響をもたらした報告がありますのでご紹介します。
インスリン分泌促進薬の一つ:ナテグリニドの糖尿病発症および心血箆イベント抑制効果を検討した臨床試験データを基に行われた前向き研究の結果、耐糖能異常【血糖値が健常人よりも上がりやすい状態を認める糖尿病の前段階】を示す患者さんにおいて 1 日あたりの歩数が 2,000歩多いことで、心血管イベントリスクが有意に低下することが報告されました。そして、この影響はベースライン時の 1 日あたりの歩数が 2,000歩多い場合にも、12ヵ月後の1日あたりの歩数が2,000歩増加した場合にも、同様に認められています(Yates T, et al. Lancet. 2014: 383: 1059-66)

「毎日走らないと」とか「30分以上走らないと」などなんとなく思っていた人にとって、こうした研究結果は朗報ではないでしょうか。2,000歩は距離にして1.2km・時間にして約20分の歩行に相当します。何もしないよりはごく短時間でも、週1回でもいいのでランニングをしてみる、「1つ手前の駅で降りてー駅分を歩く」等といった取り入れやすい歩行・運動習慣を組み入れてみて下さい。

運動「内容」と「時間」に注意 「過ぎたるはなお及ばざるが如し」

同じ「運動」でも激しい運動は、からだが動くためにエネルギーを補充し、血糖値を上げるホルモンの分泌を増やし、一時的に血糖値が高くなってしまうことがあります。血圧を上げてしまうような高い強度の筋力トレーニングは、心臓や腎臓に負担がかかります。また、緊張をする場面での運動(ex;肉体労働)では単純な運動と異なりストレスホルモンが分泌され、結果的に血糖値が上がることも珍しくありません。

健康と運動に関する世界各国のガイドラインでは、「仕事関連の身体活動」と「余暇時間の運動」と区別していません。余暇時間に体を動かすこと(スポーツやレクリエーション、旅行等)が、(心筋梗塞・脳卒中等の)心血管疾患リスクと、あらゆる原因による死亡のリスク低下に関係することは示されていますが、仕事上で必要とされる身体活動(肉体労働)と健康の関係については一貫した結果は報告されていませんでした。デンマークの研究者達は、デンマーク国内20~100歳の男女10万人余りの一般人を9~10年追跡し激しい肉体労働は運動の代わりにはならず、肉体労働のレベルが高いと死亡リスクが上昇するという報告(Eur Heart J. 2021 Apr 14;42(15):1499-1511.)を行いました。仕事の上での身体活動は余暇時間に行う運動の代替にはならず、身体活動レベルが高い仕事をしている人も、日々十分に休息でき、休日には活発に運動できるような労働環境を整えることが、健康を守るためにも重要であると考えられています。

東北大学で行われたレジスタンストレーニングやウェイトトレーニングなどの筋力トレーニングと全死亡や心血管疾患(CVD)、がん、糖尿病といった健康アウトカムとの間の用量依存性の関連について、18歳以上の成人を対象に基準を満たした研究16件のデータを抽出したシステマチックレビューおよびメタ解析を行った結果、
○日常的に筋力トレーニングを実施している群では非実施群と比べてこれらのリスクが10~17%低くなった。
○全死亡・CVD・がんのリスクと筋力トレーニングの実施時間との関係)週に約30~60分の筋力トレーニングを実施した場合に最もリスクが低くなる(約10~20%のリスク低下)一方で、週130~140分を超えると一転してリスクが上昇に転じるJ字型の関連が認められた。
(糖尿病リスクと筋力トレーニングの実施時間との関係:筋力トレーニングの時間が週に60分に達するまで糖尿病のリスク低下(約17%)が認められ、60分を超えてもリスクは低下しつづけるL字型の関連が認められた) とする結果が報告(Haruki Momma et.al Br J Sports Med. 2022 Jul;56(13):755-763)されました。

筋力トレーニングの長期的な健康増進効果が示された一方、観察されたJ字型の関連を考慮すると、筋力トレーニング活動の量が多いことが糖尿病以外の全死亡、CVD、総がんに対して及ぼす影響は不明で、やり過ぎると糖尿病以外に対する健康効果が、かえって失われてしまう可能性が示唆されました。上記研究での限界として、個々の研究毎における運動内容(自重トレーニング等の軽負荷/ダンベル挙げ等の強負荷の相違等)の強度・インターバルの有無等の評価が出来ていない事が述べられております。強負荷の運動が「ダメ」とは言えないものの、運動の「やり過ぎ」が身体にとってあまり良くないのは確かなようです。

効果的な運動と運動前のチェックポイント。運動して大丈夫?

インスリンの効果を高めて血糖値を下げる運動には、有酸素運動と、筋力トレーニングがあります。
一般的に、ややきついと感じるくらいの有酸素運動が推奨されています。
筋肉量を増加したり、筋力を増強したりする筋力トレーニングも、同様に効果があると言われています。しかし普段運動をしていない方が、いきなり激しい運動を始めると、思わぬ身体の不調が生じることがあります。まずは、ストレッチや準備体操を十分に行い、軽い運動から、少しずつ強度を上げていくことが大切です。
ヨガなどのゆっくりした動きの運動でも、正しく行うと安全かつ効果的な運動療法になります。
運動習慣のない人では、生活活動の増加・下肢体幹の低強度のレジスタンス運動からまず開始してみましょう。定期的な運動習慣が身についた後、速足のウォーキングなど中強度の有酸素運動を取り入れ、運動種目の選択の幅を広げ主体的な選択を促す事が運動継続には重要とされます。可能であれば、高強度の運動と短い休憩を交互に繰り返し強弱のリズムで行うインターバル運動など、安全に長時間できる運動を行う事をお勧めします。

いざ運動といっても、「何からしたらいい?」と、気後れする方もおられると思います。時間も場所もとらずに実践できる手軽な体操として、おなじみの「NHKラジオ体操」はどうでしょう。NHK Eテレでは「テレビ体操」・「みんなの体操」として、平日は時間帯を分けて1日3回、土日は1回ずつ放送しているようです。時間はどれも10分ほどでお手軽です。

職場によっては就労に伴う職場内の転倒・腰痛事故予防を目的とした就労前準備運動として、「いきいき健康体操」というものを行っているところがあります。これは職場での猫背姿勢や重たいものを持つ仕事などを原因とする「腰への負担で起こる腰痛」「慢性腰痛」に対する腰痛予防効果が期待できる準備運動の一つとして考案された「これだけ体操®」を組み入れたものです。詳細な内容・実際の体操については「YouTube いきいき健康体操」で検索して下さい。時間としては同じく10分ほどで、NHKラジオ体操を立った状態で行える方では一度運動をされると効果を実感出来ると思われます。
※腰をそらす「これだけ体操®」の他に、椅子に座って腰をかがめる「これだけ体操®」等もあります。

一方で、運動療法がお勧めできない状況、制限をしたほうがよい場合も存在します。
最初に、血糖値が高く血糖コントロールが不良状態の場合(特に治療開始直後の場合)は、軽い負荷(ウォーキング程度)でいったん留めて、主治医の判断の元で徐々に負荷を強めて下さい。

【次のような糖尿病合併症がある場合は注意が必要です】

・進行した糖尿病腎症(腎不全)がある状態
・増殖網膜症があり眼底治療中ないし眼底治療を中断している状態
・足に進行した潰瘍・壊疽があり治療中 ないし治療を中断している状態
・急性感染症で治りきっていない状態
・高度の糖尿病自律神経障害がある状態(ケガをしてもわかりにくくなる)
□心筋梗塞や狭心症がある←事前に循環器内科医と相談し運動強度/許容範囲を決める事。
□肺疾患がある←事前に呼吸器内科医と相談し運動強度/許容範囲を決める事。
□骨・関節:特に膝/足関節等に稼働障害あり←事前に整形外科医と相談の上、運動内容/許容範囲を決めておく事が必要です。
 →膝・腰痛をお持ちの患者様は、荷重負担の少ない水中運動や椅子に座ってできる運動がおすすめです。
【これだけ体操® を行うにあたっての注意点】
・「腰椎椎間板ヘルニア」と診断されている人→体操後にお尻から脚にかけての痛みやしびれが強まった場合は、メニューを変える等の対応が必要です。
・腰部の脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症 と診断されている人→運動を行わないでください。
・お尻から太ももにかけてしびれや痛みが出ている場合・途中でもでた人→運動を中止して整形外科を受診し診察を受けて下さい。

運動の頻度について

「血糖値を下げる」という目的での運動については、少なくとも週3日〜できれば毎日、1回あたり20〜60分、1週間で合計150分以上を行うことが推奨されています。
運動を行うタイミングですが、1日の間で、いつ行っても構いませんが、糖尿病をお持ちの方等で食後に血糖値が高くなるような方は、食後1~2時間頃に運動をおこなって頂くと効果的です。
血糖値を下げる薬を使っている方、1型糖尿病の方は運動により低血糖にならない時間帯を選ぶことが重要です。各運動種類別に見た1分間消費エネルギー量「単位は(kcal/kg/分)」は別図になり、消費したエネルギー量(kcal)=1分間のエネルギー消費量(kcal/kg/分)×体重(kg)×持続時間(分)×補正係数で算出出来ますが、自身が「感じる」よりもカロリーの消費は少ないのが現状です。 このため血糖コントロールにおいては運動療法で消費カロリーを減らす よりも 間食を控える・食事量を減らす;といった食事療法が有効とされます。

※日本体育協会スポーツ科学委員会の資料より

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