糖尿病固有の合併症3つ(糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症)及び動脈硬化性疾患3つ(心血管病変<狭心症/心筋梗塞>、脳血管障害<脳卒中;脳梗塞・脳出血>、下肢動脈硬化症/下肢壊疽)をはじめ、特定の癌の罹患率上昇や感染症、認知機能低下や、骨折等様々な合併症を来します。
固有三大合併症
細小血管障害とも言われます。おもに細い血管が障害されて症状が起こります。この合併症は糖尿病発症後でしか起こりません。
初期には症状がなく、そのためにも定期的な検査が必要です。
※糖尿病神経障害
合併症の中で最も早く出やすい(発症まで…3~5年)症状といわれていますが、人によっては症状がないことも多いです。手足のしびれ、怪我や火傷の痛みに気づかない等、手足の末梢神経障害の症状が中心です。そのほか筋肉の萎縮、筋力の低下や胃腸の不調、発汗異常、立ちくらみ等、様々な自律神経障害の症状も出ます。
神経障害は下肢閉塞動脈硬化症(下記)と重なり、下肢切断原因の第1位(年間3,000人)を占め、著しいQOLの低下・死亡原因になります。
※糖尿病網膜症
成人失明原因の第2位で年間3,000人を数えます。網膜の血管が悪くなり、視力が弱まります。失明する場合もあります。また、白内障になることも糖尿病を持っていない人より早期に出現するといわれています。若年であればあるほど、眼科での定期的な診察を受けるようおすすめします。
※糖尿病腎症
透析導入の第1位で年間16,000人を数えます(2013年全導入症例の43.8%を占めました)。腎臓は血液をろ過し老廃物(ゴミ)を排泄する働き、造血ホルモンの産生や電解質のバランス調節やアルブミン・蛋白の再吸収、身体の中の水分調節する働きなど多種の働きを有しています。腎臓を構成する糸球体という部分の毛細血管が悪くなり、腎臓の機能が徐々に弱くなり働きが喪失していきます(最終的に尿が自分で作れなくなる)。この腎臓の働きの悪化は心血管死の独立した危険因子として知られています。糖尿病腎症の病期分類は第1〜5期までありますが、未治療のままでも長い間第1・2期で経過します。しかし、ひとたび顕性蛋白尿が出る第3期、腎不全期の4期の期間は短く、3期以降から透析に至るまでが短い間で進行することが明らかになっております。
動脈硬化性疾患(大血管障害)
動脈硬化性疾患は糖尿病の発症前から進展していることが報告されております。
※下肢動脈硬化症/下肢壊疽
発症に糖尿病神経障害が密接に関わることが知られています。下肢切断原因の第1位で年間3,000人が下肢切断を発症し、著しいQOLの低下・死亡原因になることが報告されております。
※脳血管障害<脳卒中;脳梗塞・脳出血>
糖尿病を有さない人に比し3~6倍の頻度で発生することが報告されております。
※心血管病変<狭心症/心筋梗塞>
糖尿病を有さない人に比し2~4倍の頻度で発生すると報告されております。
また糖尿病神経障害を併発していると、胸部症状(胸苦しさや胸部不快感等の)自覚症状が無いまま病状進行し、しばし突然死の原因にもなります。
その他の合併症(悪性腫瘍 感染症 認知症 骨折)
悪性腫瘍
糖尿病では一部の癌のリスクが高いことが報告されています。雑誌;糖尿病2012での報告にて、肝臓癌、子宮体癌は糖尿病を有さない人に比し2.5倍、2.1倍の頻度で発生すると報告されております。また他にも膵臓癌で1.8倍、大腸癌で1.3倍、膀胱癌・乳癌で1.2倍の頻度で発生することが併せて報告されました。2021年に入り、海外(英国)で2001~18年における糖尿病患者のデータを抽出して疫学的解析を実施したところ、糖尿病患者の主な死因は、心血管疾患を悪性疾患が上回っていることが示されました。癌の早期発見のために市民検診・人間ドック等によるがん検診が重要です。都道府県別特定健康診査受診率において2014年度では大阪府は41.5%と42位に留まっておりました。直近のデータでは是正が得られておりますが、引き続き検診受診が重要と考えられます。
堺市のがん検診に関するお問い合わせは(がん検診総合相談センター;電話:072-230-4616 FAX:072-230-4636)
受付時間:9時~20時(土日祝も受付・但し12/29~1/3を除く)
また「堺市がん検診総合相談ポータル」サイトや配布されている「受けようがん検診;PDFファイルは昨年度のもの」をご覧ください。
感染症(と損傷部位の治癒遅延)
何らかの原因で感染に関する抵抗力が減弱しうる病気として、免疫不全症や悪性腫瘍、膠原病・自己免疫疾患やステロイド・免疫抑制剤の内服加療があります。実は糖尿病や肝硬変、腎不全・ネフローゼ症候群等の代償機能不全でも同様のことが起きます。
そもそも糖尿病という病気は体の免疫力を低下させる事が知られており、細菌感染症やインフルエンザ・新型コロナウィルスを始めとしたウィルス性感染症も重症化を招きやすく、血糖コントロール不良からひとたび感染症が生じると、普通の方が喉の風邪で治る範囲のものが、肺炎まで進展しないと気付かないため重症化・重篤化しやすい、という特徴があります。また全世界的な調査によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された人のうち、最大50%は糖尿病を基礎疾患としていた事も判明しております。
(糖尿病と新型コロナウィルス感染症(COVID-19)については、こちらのブログページをご参照下さい)
感染の際のホルモン異常により血糖値がさらに上昇、さらなる血糖コントロール不良を招き、なかなか血糖値が下がらなくなってしまう悪循環に陥ってしまいます。また、免疫力の低下のみならず、体の状態を元に戻すだけの力の無さもあるため、ひとたび傷が出来ても治りが悪く、下肢の血流不良がそこに重なると、低温熱傷→下肢の感染→下肢壊疽へ短期間で進展することも目にします。
「手術」は、身体状況を是正するために悪い箇所を切り取る治療 ですが、切り取る過程でどうしても傷が出来てしまいます。手術の時には<糖尿病が有るか無いか>、<血糖コントロールは良いか悪いか>は必ず聞かれる質問事項で、糖尿病があって血糖コントロールが悪い状態だと、緊急事態でない限り外科の先生は手術自体を延期される事が多い実情です。
認知症
糖尿病により動脈硬化による脳梗塞発症以外にも、脳内部の微小血管の脳血流障害、糖毒性状態での血中AGE生成、またインスリン作用不全による脳実質へのアミロイド沈着の要因により脳実質の病理学的変化が生じ、結果として認知症(脳血管性・アルツハイマー型)の発生リスクが糖尿病を有さない人に比し約2倍になるといわれています。
骨折
糖尿病患者さまでは,骨の構造変化(骨質が低下)により脆弱性骨折の危険が高まります。2型糖尿病患者さまでは糖尿病でない患者さまに比べ約2倍の骨折リスクがあることが報告されています。骨がもろくなる骨粗鬆症と糖尿病とは関連が深く、今後、骨代謝と糖代謝との関連については,さらなる研究の発展のため議論を進める必要があります。
また、転倒リスクを高める疾患としても糖尿病が挙げられています。
理由としては血糖変動異常に伴う意識障害・肥満によるバランス悪化が要因とされます。この他にも脳梗塞やParkinson病・認知症(Alzheimer病、脳血管性認知症等)、白内障・緑内障・糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、起立性低血圧・貧血、内耳疾患(メニエル病等)、長期臥床による廃用症候群、前立腺肥大が挙げられています。