痛風(高尿酸血症)とは
痛風は「風が当っただけで痛い」と表現されるほどの激痛が発作的に起こる関節炎です。また、原因物質である尿酸は、食物に含まれるプリン体の最終生成物(分解産物)にあたります。
痛風の症状の記載は紀元前500〜401年頃に、かのヒポクラテスが強烈な下肢の痛みで発症する疾患を観察し「痛風」と言う病名をつけました。病気の歴史において痛風は最も古くから正確な病態が把握され現在においても使用されているコルヒチンの有効性が知られていた特異な疾患であります。
既に18世紀には痛風発作と尿酸の関連が示唆され1900年代の初めには血中尿酸の測定法が発表されたことから痛風と高尿酸血症が関連する事は専門家のレベルでは知られていました。しかし長らく整形外科領域の急性関節炎として取り扱われることが多く、ヒポクラテス時代と同様に痛風発作時の鎮痛剤と関節炎の物理療法が長らく主流で、コルヒチンに次ぐ薬剤も1951年まで待たれることになります。
これまでは「尿酸値が高い」→関節や腎臓・尿管等に結晶ができる「痛風」、もしくは「腎~尿にできる結石=>尿酸結石(実は尿酸に関係の無いシュウ酸結石の方が頻度が高い)」が発症するも、特段に命に別状のない病気である といった考えが固定概念として考えられていました。戦前ではその割合は非常に稀でしたが、戦後、日本社会が豊かになり食糧事情が好転したと共に、急に患者数が増えだしました。このために痛風のことも「成人病」「ぜいたく病」とみる向きもあります。しかし実際には、遺伝的素因が基礎にあり、それに食習慣やストレスなどいくつかの要素が重なりあって発病する病気であり、このあたりの事情は糖尿病とよく似ています。
また高尿酸血症が結石を生じる以前の段階で血管内皮細胞障害を引き起こし、心血管イベント(脳卒中・心筋梗塞などの大血管疾患)や腎機能障害の危険因子であることが明らかになりつつあります。
症状は主に足の親指の付け根付近に生じます(ただ、足首や踵部分に発作が出る方もおられ、場所はこの限りではありません)。患者さまの多くは30~50代の男性で、女性が痛風になることはめったにありません。痛風発作の激しい痛みは数日間続き、手当ての有無にかかわらず、やがて治まってくるのがふつうの経過です。このため患者さまの中には、発作の原因である「高尿酸血症」を治療せずにいる人が少なくありません。
糖尿病は血液中のブドウ糖濃度「血糖値」が高い状態が続く病気ですが、痛風・高尿酸血症は血液中の尿酸という物質の濃度「尿酸値」が高い状態が続くのが特徴です。砂糖は溶解度が非常に高い(20°Cの水100gに食塩は35.2g・砂糖は水の倍以上の203.9gまで溶ける)ため、血中で溶けきれずに結晶が出る事は理論上ほぼありません。院長の経験例でも複数(脱水や感染など)の要因で血糖値1000mg/dl以上になった事例も何回かありました。
実は尿酸は溶解度が非常に低く、20 ℃の状態では2.5 mg/dLまで、体温に近い37 ℃でも6.8 mg/dLまでしか溶けきれず、それ以上の尿酸は「尿酸塩(尿酸の結晶)」の形で身体のあちこちに蓄積されています。もちろん血清尿酸値の基準値は性差・年齢差がありますが、この飽和溶解度(1)に性別や年齢層による差はないとされます。
したがって血清尿酸値の基準値は男女・年齢を問わず、7.0mg/dL以下として定められ、この値を超えるものを高尿酸血症と定義(2)されております。
高尿酸血症そのものも、糖尿病と同様で全く自覚症状がない病気だからです。高尿酸血症とは、からだの新陳代謝で発生する老廃物である「尿酸」が増え過ぎている状態です。尿酸コントロールには「6-7-8のルール」が適応されます。尿酸値は6以下をめざします。そして7以下を正常、7を超えると高尿酸血症となり、8以上は多くの場合、薬物治療が必要とされます。
高尿酸血症のために体内で結晶化した尿酸塩は、関節や腎臓などに溜まり結晶が生じます。関節に溜まった尿酸結晶が痛風発作の原因となります。また尿路~尿管に結石を生じると尿管結石の原因にもなります。痛風そのものは短期間で治まっても、高尿酸血症を治さないことには体内の尿酸結晶はそのまま存在し続けます。その結果、痛風発作が再発したり、腎臓中の尿酸結晶が原因で慢性腎臓病を引き起こし長期にわたるさまざまな合併症が起こります。高尿酸血症は糖尿病と同じく、放置していた場合の合併症が怖い病気です。
尿酸は全てが食事に依存するものではなく、体内で生合成される分もあり、高尿酸血症は原因によって大きく3つの病型(尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型、混合型)に分けられます。日本では、尿酸排泄低下型が約60%、尿酸産生過剰型が12%、混合型が25%と報告されています。3)直近のガイドラインでは、新たに「腎外排泄低下型」が追加され、尿酸産生過剰型と合わせて「腎負荷型」という分類になっています。2)
最近の日本の研究で、実は腸からも尿酸が排泄され、それが低下するために血清尿酸値が上昇する「腎外排泄低下型」が存在、しかも、このタイプは日本人で約8割と最も多いことが明らかになっています。また高尿酸血症の患者さんは、メタボリックシンドロームに該当する方の割合が多く、動脈硬化が進行しやすい状態にあります。
高尿酸血症の主な合併症に、腎障害、尿路結石、動脈硬化などがあります。糖尿病との関係では、とくに動脈硬化が問題となります。動脈硬化は、心臓病や脳血管障害などを起こして生命に危険に及ぼしたり、身体に障害を残す原因となる恐ろしい病気です。糖尿病も動脈硬化の大きな危険因子ですので、尿酸値と血糖値が高い人は、十分な注意が必要です。現在、国内の痛風患者数は約30〜50万、痛風ではないものの尿酸値が高い「無症候性高尿酸血症(痛風予備群)」の人は、約500万と推計されています。また痛風をもつ患者さまは、複数種の生活習慣病(高血圧、脂質異常症、耐糖能障害など)を併発することが多く、痛風だけを患っている人は5%以下にすぎないという報告があります。
尿酸値を高くしうる主な生活習慣について
- 過去に尿酸値が高いと言われたことがある。
- 関節に違和感やムズムズ感を感じることがある。
- アルコールを週5日以上(1日量で日本酒1合、ビール350-500mL、ウイスキー60ml以上 )飲んでいる。
- 食事は人より多いと思う。
- 最近体重が半年で3kg以上増加している。
- プリン体を多く含む食べ物 (干物、エビ、しらす干し、小魚、カツオ、レバー等) を週3日以上食べている。
- 運動頻度が週1回に留まる。
- 1日にとる水分が2リットル未満である(心臓・腎臓の問題で飲水制限をしている方を除く)。
- 清涼飲料水やスポーツドリンクで水分をとることが多い。
4個まで→>大きな問題はありませんが、生活習慣に注意して日々をお過ごし下さい。
5個以上当てはまった方→>血清尿酸値は大丈夫でしょうか。ご不安な方は一度、当院はじめ医療機関での採血検査をご提案します。
予防と治療
「痛風の予防」とは、「高尿酸血症の治療」と全くイコールです。
高尿酸血症は、遺伝的に尿酸値が高くなりやすい体質があり、それにさまざまな生活習慣が加わることで発病します。高尿酸血症の患者さんにおける尿酸値が上がりやすい生活習慣は、プリン体の過剰接種等の過食やアルコールの飲みすぎ、運動不足、それによる肥満、精神的ストレスなどです。お気づきのように、これらは糖尿病を招く習慣と、ほぼ同じ内容です。事実、糖尿病の人は尿酸値が高い人が多く、また、高尿酸血症の人は糖尿病や耐糖能障害(糖尿病と診断されるほどの高血糖ではないものの、血糖変動が正常でない状態。糖尿病予備群。ブドウ糖負荷試験の2時間値が140〜199mg/dLの場合)になりやすいのです。逆にいえば、高尿酸血症を治療することは糖尿病の予防・治療につながりますし、糖尿病の食事・運動療法は、尿酸値にも良い影響を与えます。そして、高尿酸血症を治すことで痛風発作を予防できるだけでなく、痛風以外の合併症である腎臓病や尿路結石も予防できます。同時にメタボリックシンドロームを治療し、動脈硬化の進行を抑えることにもなります。
減量のためには、適切なカロリーで栄養バランスのよい食事をとる、そして適度な運動を続けることが欠かせません。なお、運動の強さが強過ぎても、かえって尿酸値が高くなる事があるので注意が必要です。
また減量に加えて、尿酸値を上げない工夫も必要です。
●体内で尿酸に変わる「プリン体」の多い食べ物を食べ過ぎない
●尿酸を出しやすくする食材を取り入れる。
点が重要です。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」では、尿酸の原因となるプリン体の摂取制限として1日の摂取量を400mgまでを目安と示しております。多く含まれるものとしては
内臓系:レバーやハツ
魚介;あん肝や白子、イワシ・カツオ・マグロ・アジ・サンマ
が挙げられます。
ほかにもタコ・ウニ・エビや牡蠣も比較的プリン体を多く含む食材です。
尿酸を下げる(体外へ出す)ためには、尿をできるだけアルカリ性にすることが必要になります(酸性状態では尿酸が溶けだしにくく、排泄がスムーズにいかないため)。このため、アルカリ性食品である野菜(キャベツ;ビタミンCを多く含む)・海藻・いも類・きのこ類を多く摂ると尿がアルカリ性に近づくので、意識して食べると良いとされます。また牛乳などの乳製品もアルカリ性で、含まれるカゼインとホエイたんぱく質が尿酸の排出を促すため、おすすめです。
他にも
□アルコール(特ににビール)を飲み過ぎない(尿酸合成が促進される)
□水分をよくとる(心臓・腎臓に問題無い方では1日2L以上)
といったことも重要です。
なお、高尿酸血症の治療を始めた後しばらくの間、尿酸値が変化(下降も含む)している期間は痛風発作が起きやすくなります。発作時には医師に処方された薬を飲み、対処してください。
近年、こういった生活習慣病の発病には、インスリンが作用しにくくなる「インスリン抵抗性」が関係していることがわかってきて、高尿酸血症の発病にもインスリン抵抗性が関わっている可能性が示されています。そしてそのインスリン抵抗性を生む大きな要因が、体質面の遺伝的要素と、文字通り「生活習慣」といえます。
遺伝的要素は現在のところ治療手段はありません。しかし、生活習慣は患者さま次第で改善できることです。尿酸値が高いといわれた人は、痛風や腎臓障害、尿路結石に気をつけるとともに、動脈硬化の予防のため、生活面を工夫して、血圧や血清脂質、血糖値も適切にコントロールしていきましょう。
1)尿酸ナトリウム塩の溶解度
Loeb JN : Arthritis Rheum 15 : 189-192, 1972.
2)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版, 日本痛風・核酸代謝学会, Mindsガイドラインライブラリ
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0052/G0001086.
3)PMDA審査報告書
https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200219001/670242000_30200AMX00020000_A100_2.pdf.