2019年において世界の成人（20-79歳）における糖尿病人口は4億6,300万人とされていますが2045年には約7億人に増加(主に中国を始めとした東アジアでの増加)が予測されています。糖尿病は初期症状が自覚しづらく、診断されていない割合としては50.1％とかなり高い割合を占め、糖尿病の診断・治療介入の遅れが、合併症発症のリスクを高めてしまいます。

昨今の新型コロナウィルス感染症での重症化リスクにCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と肥満・糖尿病が挙げられていますが、それ以前から糖尿病に関連した疾患(糖尿病合併症)により世界では６秒で１人の命が奪われている(※1)という状況にあります。大阪におけるコロナウィルス感染症の第5波(2021/6/21〜9/6)でも重症者でのBMI(※2)30以上の割合は全年代(20以下〜90台)683人のうち11.7％を占める80人でしたが、40歳代以下では229人中で22.7％を占める52人、と占める割合は高めで、若年者の容体急変の陰に肥満と糖尿病の隠れ基礎疾患の存在が疑われております。

新しい取り組み／「歩行」を勧めるその真意は

糖尿病(及び糖尿病合併症)を進展をさせないようには良好な血糖コントロールを行う事が必須です。内服薬や注射製剤は基より、負担の少ないインスリン注入機器やfreestyleリブレ等の侵襲の少ない血糖日内変動を追えるさまざまな機器はもとより、今では歩行を積極的に勧めるような取り組み：「歩くとマイルがたまる」等が各社から行われるようになりました。というのも、長時間の座位で各種疾患の発症リスクが上昇する事が明らかになったのもあるので、長時間の座位はなるべく控えた方が良い風潮になっております。筋肉には歩行等による刺激を受け、筋肉が糖を消費されやすくなる事で血糖値を上げにくくする直接的な作用の他、筋肉から分泌され他の臓器にはたらきかけるホルモンの総称である、マイオカインが何かしらの影響を及ぼしている事が言われるようになりました。

(11/14追記)　２型糖尿病における座位時間の中断頻度と血糖コントロールの容量反応性を見た少数例による概念実証試験(※3)で、食事運動療法の元でメトホルミン製剤で治療中の肥満糖尿病患者においては座位（試験では全7時間）を15分毎の頻度で一度中断する事で食後の血糖値の上昇が抑制される可能性が示されました。

まだ分からない物質　が薬になるまで　それまでの間に

1983年に「消化管から出ている未知のホルモン」として同定された物質の発見は、今ではポピュラーになった体重を下げる効果を持つGLP-1アナログ製剤として糖尿病治療に使われております。日本での初めての製剤発売までに2010年までかかりましたが、今は内服可能な錠剤タイプが販売されています。
マイオカインは筋肉の動きや温度といった適切な刺激によって分泌量が増え、逆に筋肉の動きが少ないと分泌量が減る、現時点で30種類近く、まだ同定されいないものも100種以上ある　といわれていますが、まだ謎が多い存在です。筋肉から放出されるいかなる物質を利用したものであれ、実際に薬剤が出来るまではまだ相当に時間を要するでしょうし、また筋肉がある程度残っていないと、その作用も充分に期待ができないと考えられますので、現状としては身体にある＜筋肉＞をいかに残した状態で老後を迎えるか　というのが大切になっております。　

今後とも、しんかなクリニックをどうぞ宜しくお願い致します。

引用
(※1：IDF Diabetes Atlas 9th edition 2019)
(※2：Body Mass Index：ボディマスインデックスという肥満度を表す指標として国際的に用いられている体格指数。[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出され、低体重（やせ）〜肥満の判定に用いる。18.5未満を「低体重（やせ）」・18.5以上25未満が「普通体重」・25以上が「肥満」出典；厚生省EヘルスネットHP)

(※3：Aye C Paing et.al.J Sci Med Sport. 2019 Jul;22(7):808-813.2019)

URL: https://shinkana-cl.com/